寝ごこち科学研究所

眠トレ(睡眠指導ツール)が睡眠、日中の眠気、
生活の質(QOL)に与える効果

image日本人は世界的に見ても極端に睡眠時間が短いと言われています。特に大学生の平均睡眠時間は世界で最も短く、加えて生活習慣も不規則です。睡眠短縮による睡眠不足は心身のみならず、脳機能にも影響を与えており、注意・学習機能の低下(Bonnet,1994)、集中力・意欲などの低下につながることが指摘されています(Drake,et al.,2001)。

また、大学生の蓄積的疲労感に影響を及ぼす生活習慣として、睡眠時間や朝食摂取の規則性が報告されています(高倉、1992)。特に、疲労の身体的側面には、睡眠時間が関連しており、充分な睡眠をとることが身体的疲労を回復させると言われています。

以上のことから、睡眠問題を改善することは、注意力や意欲の向上につながり、精神健康の改善・ストレス反応を低下することが期待できます。つまり睡眠問題の改善は、生活をしていく上で、生活の質(QOL)を向上するための重要な課題であると考えられます。

そこで、本研究では、イワタが開発した睡眠指導ツール・生活習慣の自己管理システム「眠トレ」を用いた自己調整法によるスリープマネージメントを2週間行い、睡眠及び疲労回復、日中の眠気軽減への有効性を検討し、身体活動、精神健康に与える効果を評価することを目的としました。

対象

  • 睡眠習慣に何らかの問題を持っており、あらかじめ実験の目的、内容について説明を行い、参加に同意が得られた大学生19名(男性11名、女性8名)を対象者としました。

方法

2009年2月下旬~3月中旬に実施

  1. 睡眠に対する知識教育を行ったあと、睡眠指導ツール・生活習慣の自己管理システム「眠トレ」に登録し、かつそれを使用する群(以下、眠トレ群)
  2. 睡眠に対する知識教育を行ったあと、それ以外は普段と同じ生活を送る群(以下、教育のみ群)

①②の2条件を設定し、対象者19名を「眠トレ群」9名、「教育のみ群」10名にランダムに振り分けました。両群ともに、睡眠の知識教育前後にアンケートを用いて睡眠状態・眠気・精神健康について把握しました。

結果

まず、睡眠に対する知識教育効果を検証するために、睡眠の知識教育実施前後の睡眠状態の結果を図1に示しました。これは得点が低くなればなるほど、睡眠状態が良いことを表しています。図1をみると、知識教育実施後で得点は低くなっており、有意差が認められ(p<.05)、睡眠が改善していることが分かりました。

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次に、図1同様に睡眠知識指導前後における就床時刻の差(普段)、起床時刻の差(普段)比較した結果を図2に示しました。これは、就床時刻・起床時刻の規則性について調査することを目的にしました。図2をみると、就床時刻の差も有意に少なくなっており(p<.05)、起床時刻の差も少なくなる傾向にありました(p<.10)。

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つまりこのことから、睡眠の知識教育を行うことは、睡眠の質を改善し(図1)、生活の不規則化を低減する(図2)、つまり生活リズムの調整に有効であるということが示唆されました。
(※図1、図2に示す結果は、「眠トレ群」・「教育のみ群」の両群をあわせて分析した結果です)

次に「眠トレ群」における眠トレ実施前と眠トレ実施後の睡眠状態の変化について示しました。
図3は、眠トレ実施前後の睡眠時間の差を示したものです。これを見ると、実施前は7.6時間だったものが8.2時間と睡眠時間が有意に増加する傾向にありました(p<.10)。

m3

図4に眠気について、眠トレ実施前後で比較した結果を示しました。眠気得点は低ければ低いほど、眠気が少ないことを示しています。これを見ると、実施後で日中の眠気得点は減少傾向にありました(p<.10)。

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図5には、客観的に睡眠状態を把握するために使用したライフコーダの結果を示しました。図5は、眠トレ実施前後での睡眠効率(実際に眠っていた時間/布団の中で横になっていた時間×100)を示しています。これを見ると、睡眠効率については眠トレ実施前後で変化は認められませんでした。

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図3から図5までの結果から、眠トレを実施することで睡眠時間の延長につながり、眠気も低減することができ、睡眠時間の確保につながったと考えられます。また、就床時刻・起床時刻が規則的になっていたことから眠りについての意識定着の可能性も示唆されました。

次に眠トレ実施前後の生活の質(QOL)を比較した結果を図6に示しました。これは得点が高いほど良好であることを示しています。

これを見ると、「社会生活機能」において、眠トレ実施後で得点が増加しており、良好になっていることが分かりました(p<.05)。また、「心の健康」「精神的QOL」の尺度においても眠トレ実施後で改善している傾向にありました(p<.10)。

一方睡眠知識の指導のみを行った「教育のみ群」では、「心の健康」尺度においてのみ改善の傾向が認められました(p<.10)(図示はなし)。

つまり、教育のみでもQOLを改善するきっかけになる可能性が示されましたが、よりよい効果をあげるためには、眠りに対する自己マネージメント(今回は「眠トレ」を用いた)を行う方がより効果的であるということが示唆されました。

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精神健康度について比較した結果を図7から図9に示しました。

まず、図7には実験前後における本実験対象者の精神健康度の変化について示しました。精神健康度は得点が低ければ低いほど良好であることを示しています。実験前では、58.2点だったものが実験後では50.7点と得点が低下しており、精神健康が改善していることが分かりました(p<.001)。

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(※図7に示した結果は、「眠トレ群」「教育のみ群」をあわせた結果になります)

図8には、「眠トレ群」における実施前後の精神健康度の各尺度について比較した結果を示しました。これをみると、「身体症状」と「不安と不眠」尺度において眠トレ実施後で得点が低下しており、有意に改善していることが分かりました(p<.05)。

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図9には、「教育のみ群」における睡眠に関する知識教育前後の精神健康度の各尺度について比較した結果を示しました。これを見ると、「不安と不眠」(p<.05)、「うつ状態」(p<.10)の尺度にて教育後で得点が低下しており、改善していることが分かりました。

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図8、図9より、教育を行うことで睡眠について意識付けを行い、そのことが精神健康を改善した可能性が示されましたが、自己調整法による睡眠改善への取り組み(眠トレ)を行う方が、より良い効果が得られることが示唆されました。

以上のことから、睡眠改善に重要な生活習慣メニュー実施(眠トレ)における睡眠指導は、生活リズムの規則性、改善された睡眠習慣を定着させることが示されました。また睡眠状態の改善により、慢性的眠気も低減させることが分かりました(図4参照)。

生活が不規則だった者が、睡眠知識を知ることにより、不規則化が低減し(=生活リズムの調整)、このことが睡眠時間の確保・生活リズムの定着化につながったと推測できました。

また、睡眠の自己調整法(眠トレ)を実施することは良質な睡眠を確保するだけでなく、生活の質(QOL)の改善(特に精神的QOL)、精神健康の改善にもつながることが示唆され、眠トレ活用の有用性が示唆されました。

一方、2週間の実施期間では、疲労、うつ、脳機能においては統計的な有意差は認められず、今後より長期的な検討が必要だと考えられました。

※本調査は、2009年8月京都で開催されました日本心理学会第73回大会、および2010年7月名古屋にて開催されました日本睡眠学会第35回定期学術集会にて発表されたものです。
※本調査の内容を無断で転載しないでください。

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